貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
「悪いのは、私。誰の所為でもなかった、だから尚更……」
「お姉様の所為じゃない。きっと神様が、目を離されていたの」
「神様に頼れば良かったなんて、思えないよ。彼女は私が」
「あの方は、幸せだったと思うわ。あの方が幸せだったから、お姉様はここにいる。そう思うのは、私のエゴというものかしら」
澄花の声が、胸にしみる。
それだけだ。しみても、言葉は純を救わない。
「お姉様」
純を抱き締める澄花の声は、落ち着いた低めの音色だ。ただしまとう雰囲気は、公の場にいる時とはさばかり違う。
「私は、どこまでもお姉様に付いていきます」
その言葉が示唆する想いは、明らかに妹らしい重みを含んだ。
* * * * * * *
昨夜から片時も離れないで行動を共にしている里沙と、あずなは『パペットフォレスト』の本館にある売店を訪っていた。
今夜は、里沙があずなを部屋に招いた。日も暮れて、ひとまず夕餉をとることになったところだ。
調理済みのインスタント食品でも、里沙とつつけばきっと美味しい。
一目惚れという言葉がしっくりくる、出逢った瞬間あずなの体温を上げた里沙。そんな彼女と買い物に出る。
とるに足りない日常のひとこまだと軽んじられても、あずなにとって、それは大きな喜びだ。
一緒に過ごせば過ごすほど、里沙は綺麗になってゆく。
もとより里沙は、あずなの贔屓目を差し引いても、格好良い。
立ち振る舞いにも言えることだ。一緒に歩く時の里沙のあずなの扱いは、例えばここに上流階級の箱入り娘がいたとすれば、それだけで頬を染めようものだ。落陽して不要になったあずなのパラソルを代わりに持って、他の宿泊客とすれ違う時、実にさり気なく肩を抱き寄せてくれる。切れ長の凛とした目許によく映える、柔らかな温もりを孕んだ眼差しで、あずなを見つめる。とりわけ侠気なあずなより、幾分嬋娟な優しい声で、あずな、と名前を呼んでくれる。
甘ったるい酩酊から、にわかにあずなを白けさせたのは、売店の一角にいた見知った男だ。