貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
「あぁあっ、リュウ様っ。とっても可愛らしい女の子がいらっしゃるわ!」
鈴を鳴らすようなソプラノが、雑音を拒んでいた乙愛の扞禦をにわかに破った。
弾かれるようにして顔を上げるや、乙愛は目を疑った。
向かい席に並んでいたのは、はっとするほどの美少女と、ミステリアスな青年だ。今しがたの停車駅から乗り込んできた乗客だ。
ことに少女の方は、人形かと見紛うた。無論、彼女は動いて言葉を話している。傾聴を妨げたのも、彼女の声だ。
「失礼じゃないか、すずめ。初対面のお嬢さんには淑女らしく振る舞いなさい」
リュウ、と呼ばれた青年は、すずめという名らしき少女の片手をやおら握った。窘める口調は楽しげだ。
亜麻色の巻き毛にピンク色のメッシュを入れたすずめと同じく、リュウの長髪も脱色してあり、愛らしいメッシュが入っている。
海外では、タトゥーを揃いにするカップルがいるそうだ。彼らも日本流といったところか。
「あのぉ……ごめんなさいましっ」
すずめが頭を下げるまで、乙愛は数秒、彼女を見入っていた。
フランス人形のような華が溢れて、気品と愛嬌が共存しているすずめの容姿もさることながら、薄いピンクと薄い水色をとりあわせたコーディネートは、乙愛なら倣えなかろう小慣れた感じだ。辛辣な田舎道を歩いたところで、誰一人振り向かなかろうほど馴染んでいた。ふんだんに使ってある半透明のフリルレースは、可憐なすずめによく似合う。
「えと……」
「貴女それ、買えたのっ?!」
プレーヤーを停止して、乙愛がイヤホンを外しきると、またもやすずめが声を上げた。
それ、とすずめが示したのは、頭にリボンを乗せたアルパカがあしらってあるイヤホンだ。
「そう。それ!発売と同時に完売したってお聞きしたけれど?!」
「これは……母が」
「あっ。名前、すず姫は野原すずめっていうの。一八歳、高校生。こちらは兄の、野原リュウ様」
乙愛が受け答えを終えるまでに、すずめは思い出したようにして、自己紹介に切り替えた。さばかりきちんとした生まれ育ちであるようだ。