貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
「お嬢さん方も買い物かい?」
プリンやゼリーの並んだ冷蔵庫から、リュウがあずな達に顔を向けた。
「見れば分かるでしょ」
「あずな」
「何、里沙。このシスコン野郎に優しくしろって?」
いくら里沙でも、この件だけは譲歩し難い。
男は、男というだけで厚顔だ。別段恨みはないものの、あずなにとって、その生態こそ癪に障る重大要素だ。
肉体も、思考回路も、男を構造しているものは女と異なる。どれだけ身のこなしを洗練させて、どれだけ感じやすい心魂を培っていても、彼らが美や知性を極めるのには限界がある。
にも関わらず、歴史や社会で胡座をかいてきた大半は、男だ。
力だけはある。ゴキブリ並みの生命力を備える彼はらは、下品なくせに、威張るための知恵はある。大した努力もしないまま、生まれて生きているだけで、大抵のものは手に入る。女をも、力づくで。集団思想がどこまでも彼らを幇助する。
「そう……。すずめさん、プリンがお好きなのね」
「うむ。夕飯は何でも良いが、プリンだけは買って戻るよう姫から仰せつかっている」
「野原さん達は、自炊しないの?コテージには台所もあるけれど」
「ふっ……料理など。庶民の仕事は、すずめとオレには合わないからな。第一、すずめの美しい手に傷でもつこうものなら、世界が終わる」
「本当に妹さん思いなのね。すずめさんほど愛らしい方なら、野原さんが放っておけないのは、何となく分かるわ」
「ちょっと里沙ぁ!」
夕飯を吟味していたあずなの後方で、どうりで聞き覚えのある声が、なごやかな歓談を繰り広げていたわけだ。
あずなが振り向くと、里沙とリュウが、打ち解けた友人同士よろしく話していた。