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貴女は私のお人形

第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、



「里沙、騙されないで」

「オレとしたことが……長居してしまった。もしもし、すず姫」


 貴公子気取りの男には、あずなの敵愾心などとるに足りないということか。

 携帯電話を耳に当てたリュウの頬の筋肉は、だらしない。

 けだし帰りが遅れる旨を、一刻も早く最愛の妹に知らせなければ、彼の世界は暗闇に染まってしまうのだ。

* * * * * * * * *


 リュウはすずめが贔屓にしている製菓会社のプリンをレジに通すと、『パペットフォレスト』の本館を出た。


 月が清澄な光を跳ね返していた。自然豊かな土地だけに、夜の涼は都会を凌ぐ。



 早く帰ってきてね、すず姫、リュウ様に早く会いたい。



 電話口でのすずめの声が、春風になって、リュウの胸奥をそよぐ。





 にわかに第三者の視線が差した。


 昼間であれば構わず足を進めるところだが、不可視の糸に絡め捕られるようにして、リュウは振り向く。


 気味が悪い。


 何しろ『パペットフォレスト』の夜は、独善的な文明の進化をものともしない世界にこもる。

 濃厚な夜陰の覆った草木の道を、電流のごとく辛辣に蝉が嚶鳴していた。夏独特の生温い風が、リュウの肌をからかってゆく。


 視線は、リュウをじわじわ締めつける。怨念にも似通う、強烈な何かを伴って。少なくともリュウに見惚れた人間が、恋い焦がれて見澄ましているのではあるまい。

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