貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
* * * * * * *
媚薬が、乙愛の細胞のすみずみへと染み通ってゆく。
『乙女の避暑』三日目の夜のメインイベント、神無月純のスペシャルライブは、一同が息をのむ中、始まった。
隅から隅までこまやかな装飾の散らばった、幻想的な星空のラウンジ。
世にも美しく世にも切ない、天上のハープも敵わなかろう純の声は、乙愛のドレスを淡く染める青い光の色にも似通う。
純の世界を、魂を、肌で感じている。…………
乙愛にとって初めての純のスペシャルライブは、もはやその域を超えていた。
感性を、官能を、この世のものではなくなるまで、徹底的に冒される。聖餐式だ。天使を崇める乙女達が、その恩恵を受けるための、救われようと無我に傅く、さながら儀式。
楽園はない。
純はかなしみにまみれた天使だ。だからここには楽園がない。
触れられない夢の中に
今も見える
貴女に微笑いかけていた私は
幸甚を抱えきれなくて
"憎らしいくらい
無邪気だったね"
影に映る夢の如くひとときは
一欠片も欠けてはならない
この血が憶えた ほんとう
想いだけはあの場所に
あの場所に
鍵をかけて仕舞っておきたい
新曲の『楽園小夜曲』を歌う純は、旧懐の優しさを湛えていながら寂しげだ。
初期の『かなしみドール』や『罪過』にも、言えたことだ。
純は、まるで特定の誰かに恋より深い酷愛でも囁くような、胸の迫る歌い方をする。