貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
華やかな容姿を引き立てる、長い金髪。ケミカルレースの小花をふんだんに飾った純白のジャンパースカートと姫袖のブラウスは、たわやかな肢体にまといついてはしゃらしゃらと揺れるジョーゼット。白いゴシックロリィタのワードローブが、今夜はひときわ天使の狭衣めいている。
白い首筋に、細い肩。無駄な肉づきのない、それでいてあえかなまろみのあるシルエットは、やはりどれだけ腕のある人形師が丹誠込めても、ドールに模せまい。黒く長い睫の影が縁取る目許には、愛らしい装いとはよそに、やはり騎士を聯想する凛々しさがあった。
奇跡の歌声に酔いしれながら、乙愛は恋する少女の瞳を純に据える。
純の言葉の一つ一つが、乙愛の心をかき乱す。
雰囲気が、乙愛の中の、不要な色を洗浄してゆく。
あんなにも美しい女に、『楽園小夜曲』のような言葉を贈られたら…………
悲しい愛の歌なのに、例えば乙愛が純のああした愛を受けたとする。さすれば、悲しい恋も明るい恋に変えられよう。雨が降ろうが槍が降ろうが、決して愛する女の手を離さない。
純と一緒なら、どんな場所でも、乙愛には楽園になる。
誰かを、想っているのか。
時折、乙愛の心臓は白刃を受けた疼痛に怯える。
単純なときめきや切なさを超えた、温度を持たない不可視のものが、胸を抉り出そうとする感覚だ。途方もない悲しみが、底知れない絶望さえ、ちらつくからかも知れない。
天使の声は、乙愛を楽園にいざなう。純の存在は、乙愛の欠落したものを補おうとする。
それは禁断の果実を口にしているようでもあった。甘く苦艱をもたらす毒を、含んでいないとは限らない。
楽園と地獄が紙一重ではないと、誰に証明出来ることか。