貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
「今夜は、皆様とここで過ごせたことを、幸せに思います。以前から私の歌を知って下さってる方も、初めての方も、このご縁には何か意味があったのだと……信じたいわ」
素っ気ない顔を装いながら、従業員達らも純の話に耳を澄ましていた。
皿を拭いていたらしい男も、ディスプレイを直していたと思しき女も、手が止まっている。
「ご存じのお嬢様もおいででしょう。私は他人と関わることが、得意ではないの。有り難いお話を下さる各方面の関係者の皆様にも、なかなか良いお返事を返せなくて。インディーズとして私はいつまでやっていけるか、不安になることもあった。妹として、仕事のパートナーとして頼れる澄花がいてくれなければ、きっと今日までにも引きこもりになっていたわ」
小さく笑って、純が澄花と顔を見合わせた。
「歌っている時だけ、私は自由になれる。構えないで飾らない言葉が、自然に出てくるの。他人と……いいえ、私に向き合って下さる皆様と、ちゃんと向き合いたいと思えるわ」
まるで似ていないのに、乙愛は、やはり純に似ている。
容姿や雰囲気などではない。乙愛の深淵に眠る本質が、狂おしいほど共鳴する。
乙愛とて生理学的に人間だ。そのくせ人間と名づくものが怖い。半ばこじつけに人見知りと形容しても、実際は、そんな単純なものではない。
懐疑や防衛本能が働くだけの感情すら、煩わしい。乙愛は、ドールになりたい。あまねく欲望も理不尽もものともしないで、無機質な白いだけの物質に。
それとは裏腹、誰かと繋がっていたい思いも失えない。
ただ、とても、ドールに憧れる。
完璧な、ドールにも優る生きたドール。純に愛でてもらえるようなドールに、乙愛はなりたい。