貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
* * * * * * *
「乙愛ちゃん!」
あずなの声が、酩酊した乙愛の意識を引きずり戻した。
『乙女の避暑』限定スペシャルライブは、大盛況の内に幕を閉じた。
束の間の夢でも見ていたようだ。
里沙やあずなに流されて、辛うじて乙愛も『ブルードール』を後にしたが、廊下に出ても、目蓋の裏には眩いばかりの純の艶姿と、耳の奥には天使の歌声。総身にまとわりついた純のオーラが、乙愛を肉体までビスクに変えているようだった。
「は、はい、何でしょう?!」
「カラオケ行かない?」
「えっ?」
「カラオケ。里沙も私もテンション上がっちゃってさー。眠れないっていうか、地味にトランプやる気にもなれなくて。乙愛ちゃんも眠れないでしょ?」
もっともだ。昨夜は一日振りによく眠れたが、またしても今夜、乙愛とて興奮冷めやらない。
「純様、あの美しさは罪よねぇっ。野原兄妹の気が知れないわ。あんなものを聴きに来なかったなんて」
「すず姫、大丈夫かしら……」
「見た感じ、顔色悪いようでもなかったけどな。珍しく過保護も同伴じゃなかったし。ま、純様と澄花さんの連絡手段がないんだし、直接来るしかなかったんだろうけど」
「…………」
ライブ開始より少し前、ラウンジにすずめの姿が見えた。体調不良により今夜は欠席。エントランスでそう澄花にことづけて、パステルピンクのドールは引き返していった。乙愛達のいたテーブル席から、すずめを目に入れても痛くなかろう男は見えなかった。
あのリュウが、たった一人すずめを使いに出すだろうか。しかも不調の妹を。
「というわけで、一人でお部屋に帰っても、乙愛ちゃんは眠れないわよ?」
「いえ、それとこれとは──」
「あたくしが行くわ!」
たゆたう乙愛とあずな達の間に割って入ったのは、ノゾミだ。