貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
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今しがたまでいたラウンジとは対照的に、カラオケ施設『マーメイド』はピンク色の眺めに落ちていた。
さしずめ夕まぐれの薄紅に、気の早い星々が瞬くような照明。白地にアイボリーのドット柄がプリントしてあるソファがその色彩に憧れて、同系色のクッションが寝かせてあった。
乙愛はキャンディの形をしたクッションを抱いて、先頭のあずなに注目した。
「歌います!知ってる人は一緒に歌ってねー」
昭和のアイドルソングを彷彿とするメロディが、スピーカーから流れ始めた。
ブレザーの制服を着た少女達が、スクリーンに現れる。少女達は芝生を蹴って、川を目指して走り出す。
『♪十年振りに君を見かけた~あの子と一緒にいる君は~変わらず綺麗だったけど~あの時あたしを選んでくれていたら~もっと君を輝かせること出来たのに~』
…──上手い。
即興らしい振りつけはともかく、あずなの歌唱力は並外れていた。
おまけに、少し低めの掠れた声は、アイドルソングに新たな味を与えていた。
包容力があって、安定感はさることながら、ほっとする。胸が熱くなる声だ。
純様の次に……カッコイイ……。
「夕日に向かってレッツゴーっっ!!!喧嘩上等!!!」
…──アドリブが入らなければ、もっと良かった。
曲が終わると、乙愛らはあずなに拍手を送った。
純と里沙も、心底あずなに感心した顔をしている。
「湖畔さんって、すごく上手いのね……採点機能がなくて良かったわ」
「あっても神無月さんには負けますよぉ」
「こう言っては悪いけど、意外だわ。あずなは手作りばかりして、歌う時間なんてないのかと」
「私だって息抜きするよ。発散したい時は、歌うとすっきりするでしょ。巻き薔薇作りながらでも、歌う」
「ふふ、だから良い表情してるのね?今」
「里沙も歌って、良い表情になろ?」
あずながソファに戻って、里沙にマイクを回した。
「んー……じゃあ、私は……」
里沙がリモコンを操作する。
隣であずなが、期待に満ちた目で、彼女を見つめていた。