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貴女は私のお人形

第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、




「送信」


 スクリーンに現れたのは、著名なミュージカルの代表曲のタイトルだ。


「あー!知ってる!」


 あずなが身を乗り出した。


「この話、好きなの。過去からタイムスリップした王子が、現在のお姫様に恋をする。けれど、彼はお姫様の遠い先祖だったから──…」

「周囲には認められなかった恋。それに、お姫様には嫌味な婚約者がいたもんね。私は、婚約者演っていた役者さん、好きだったかも。可愛かった」

「大抵、王子か婚約者で分かれたわよね。私はお姫様派だった」

「里沙って娘役派っ?男役追っかけてる子はそこそこ会ってきたけど、珍しー」

「お願いします、お姫様」


 里沙がマイクをあずなに向けた。

 マイクは通常のカラオケルーム同様、二つある。デュエットには勝手が良い。


「えぇっ」

「途中、かけ合いになるでしょ。あそこ一人じゃキツいから」

「じゃ、じゃあ、王子歌わせて!」

「えぇっ?!」

「サビのソプラノ……キツい……」


 どことなくはにかみながら打ち合わせをするあずなと里沙は、ともすれば恋人同士の初デートを聯想する。

 こうも睦まやかでありながら、あずなと里沙は、あくまで友人同士の態度を越えない。まる二日という、共有した時間の鮮少が理屈を働かせるからか。昨夜、乙愛が招かれてから今まで、片時も離れなかったという。おりふしあずながけんもほろろに振る舞うのを除いては、昼間のお茶会といい、けだし乙愛も羨むほどのカップルになる。



 『乙女の避暑』が終わった後、離れるのが辛いから…………?

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