貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
曲の終わったスクリーンに、最新ランキングやらCMやらが、流れ始める。
たった今まで流れていた、秘めやかでロマンチックな空気が嘘のようだ。
「ご、めん、ね……?」
あずなが里沙に謝っていた。必死だ。
乙愛はもう心臓がひとりでに逸って、恍惚から抜け出せない。
里沙とあずなのデュエットが、乙愛の脳裏を離れない。
美しい、さながら天使のような女も、得も言われぬ面持ちを現していた。
「乙愛?」
乙愛の視線が声として聞こえでもしたように、純が首を動かした。
「どうしてあずなが謝るの。格好良い王子様を有り難う」
「里沙に言われても、説得力ないなー。王子様は里沙だもん」
「じゃ、今度は交代しない?」
「無理だよー」
里沙とあずながじゃれ合っている。
あずなは、緊張しないのだろうか。胸が詰まって、肩が凝り固まったりしないのか。
乙愛が純に対するように、あずなは、里沙と一緒にいても、息が苦しくなったりしないのか。…………
「大切な人と離れなくてはならないなんて、悲しい物語ね」
純の手が、乙愛の肩に優しく触れた。それはごく自然の仕草、惹かれ合うべくして惹かれ合う物質同士が、あるべき形に戻ったように。形の良い指先が腕をなぞる。手首を伝って、乙愛の片手をやおら握る。
リボンで編み上げられた真っ白な袖を通して、純の繊手の重みが、質感が、体温が、乙愛の性感をくすぐる。
「現世で一緒になれないなら、一緒に逝ってしまえば良いのに」
「純様……?」