貴女は私のお人形
第4章 それでも、どんな真実があったとしても、
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惜しみない笑顔を輝かせて、少女が純に走り寄る。
長く艶やかな黒髪に、積もりたての淡雪のように白い肌。清楚な目鼻立ちはとりわけ個性を主張するものでなきにせよ、少女は、あまりに自然に純の世界を構成していた。
『講義疲れたー!先生ったら、あたしが英語嫌いなの知ってるくせに、当てるんだもの。あのヅラっ』
『こーら。顔に似合わない言葉使っちゃダメ』
『ふんっ、どうせあたしは地味顔よ。でも嫌いなんだもの。英語もヅラも』
純より林檎二個分は背丈の低い、たわやかな肢体が隣に落ち着く。あどけなさの残った顔は、頬だけ膨らんでいた。溜まった不機嫌をつついて、抜いてやりたい。
白い肌に、黒と白でまとめた洋服が、まるで少女の一部のようによく馴染んでいた。
帰路に急ぐ学生達の流れに紛れて、純も少女と門外へ向かう。
『君は愛らしい。それ以上魅力的にならないで』
『……貴女だけよ。そんな風に言うのは』
『それが良いの。君にこういうこと出来るのは、私だけだし』
『ひゃ、ちょっと、先生来る』
『先生だって、昔は若かったんだよ。やってたって』
『もう、無茶苦茶』
少女のはにかみが怒りに転換する前に、純は二人の距離を戻した。
『ね、今日も行く?』
放課後、二人のデートの定番は、カラオケルームだった。
中学に通っていた時も、高校に通っていた時も、部活動並みに二人が足を運んだ場所。大学に進んでも変わらなかった。