貴女は私のお人形
第4章 それでも、どんな真実があったとしても、
「本当に、昔からどこででも寝られるんだから……。コテージの玄関で寝るなんて、前代未聞だわ」
呆れた面持ちの澄花の手先が、純の着ているジョーゼットのブラウスに伸びる。
「リボンがよれてる。朝帰りは良いけれど、少しは気を付けてくれないと。身体にも良くないし、施設の中だからって、物騒じゃないとは限らないのよ」
「別に。蹴るなり殴るなり、したければすれば」
「お姉様」
田舎に残した両親を除けば、澄花は、たった一人の純の味方だ。
味方だからこそ、晒せるところもあるのかも知れない。
「ごめん」
純は、リボンを直してくれた澄花の手を引き寄せた。
「どうして良いか、分からない。澄花……貴女はもう帰っても」
「帰らないわ」
「澄花には友達がいる。恋人だってちゃんとつくって、母さん達みたいなあったかい家族が……貴女には似合う」
「お姉様が、そんなことを仰るなんて」
「柄じゃない?」
「ええ、全く」
相変わらず、迷いのない物言いだ。
この調子だと、本当に、澄花は生涯、友人との予定もないがしろにして、恋人もつくらないだろう。純を一番に考えるあまり。
「お姉様」
髪を下ろした寝間着姿の澄花は、綺麗だ。
努めて何もしていないのに、羨ましいほど綺麗だ。
「私は、許せないの。お姉様がご自分を責めるのは、この世界の所為だと、真剣に思うわ」
「危険思考」
「結構よ。皆そうじゃない。正常ぶって、正直者を、異常者扱いして、傷つけるんだから」
澄花の天衣無縫な目の奥に、暗い影が炫耀していた。
「澄花」
妹だけは、何も知らずにいて欲しかった。
「私は世界に、感謝してる。彼女に出逢えた。貴女にも」
「お姉様……」
「けど」
胸の痛みは否定出来ない。
涙は枯れない。
「私は、赦されない。誰にも赦されたくない」
それでも生きていられたのは、生きない理由がなかったからだ。