貴女は私のお人形
第4章 それでも、どんな真実があったとしても、
純が、本気で乙愛を相手にするはずがない。
否定出来ればどれだけ楽か。だのに、それはそれで、純の優しさそのものを、拒むようで気が引けた。
「それはそうと、リュウさんは?」
話題を逸らせたかったのではない。
遡ること数十分前、コテージを出たところで乙愛が鉢合わせした時、すずめは既に一人だった。乙愛はほぼ思いつきで朝餉を共にすることを提案したが、これはすずめに付きっきりだったはずのリュウらしからぬ不在だ。
まもなくここで、『乙女の避暑』四日目の、二つのメインイベントが始まる。
にも関わらず、リュウは未だに姿を見せない。
ガシャーーーン──…………
「すず姫?!」
突然、大きな音が乙愛の耳を殴った。
すずめの両手を滑り落ちたフォークとナイフが、彼女の手許の皿を叩いたのだ。
「あ……。ごめん、リュウ様ね、家にお帰りになったの」
思いがけない返答だ。
「お父様が、帰ってこいって。お、お仕事……で。私も、明日の……」
「すず姫?」
「明日の朝には、帰らないと、ダメかも知れないわ」
「──……」
聞いた話では、すずめとリュウの父親は、国会議員だ。
夏の間は海外に単身赴任していると聞いていたが、急な帰国が兄妹を引き戻すに繋がったらしい。
「寂しくなるわね」
「おと姫に逢えて、良かった。ありがと」
「これからも連絡とりましょうよ。アドレス、交換しない?」
「ええ。そうね。赤外線……出来る?」
まるで心ここにあらずなすずめと、乙愛は、携帯電話の赤外線ポートを向け合った。