貴女は私のお人形
第4章 それでも、どんな真実があったとしても、
「神無月純とは、虚実を併せた存在。全てを見せられるほど、私は真っ直ぐでも綺麗でもない。クライアントの皆は、どこまでこの姿を信じて下さっているのかしら……。もし私が、彼女達の期待を裏切る時が来たとすれば、彼女達から奪うものの大きさが、屡々、心配になる。大きなお世話ね。ただ」
ああ、そんな嚮後はありえない。
乙愛は胸奥で首を横に降る。
純が好きだ。この先もし変わる何かがあったとしても、乙愛に失うものはない。
「ただ、想いだけは、本当。歌に、あるいは『Saint melody』に、私は愛を託しているわ。それだけは、信じて下さって結構。私に共感して下さる女性達を、同じだけ、いいえ、それ以上に愛することを誓います」
里沙の妹がこの場にいれば、鼻血を出していたのではないか。
「次のご相談に移ります。えっと……田中さん。『上司に馬鹿にされ、部下になめられていました。年の近い友人は、田舎に一人、いるだけです。五十にもなって安月給で、仕事をやる気がなくなりました。人間不信に陥り、会社を辞めたあたくしは、ニート三年生です。生きる希望を下さい』……」
純の真摯な眼差しが、初日はあれだけ邪険にしていた招かれざる客に移った。その色は真摯に澄んでいる。
あずなに負けず劣らず男嫌い。もしかすれば純の場合は、根深い所以さえあるかも知れないのにだ。
「田中さんは、円満な人間関係と多くの収入をお望みなの?」
「ええ。あたくしと上手くやってくれる上司や部下は、多ければ多いほど、嬉しい。友達だって……誰だって一人じゃいやでしょう。馬鹿にされたり、なめられたり、もうたくさん。初めて彼女が出来た時だって、あたくしに一軒家が買えないから、安アパートに連れて帰ったの。すぐに愛想を尽かされたわ。あたくしが安月給なのは、上層部の人間全てに、馬鹿にされていたからなのよ!」
「馬鹿にされた理由として、心当たりは?」
「あたくしがのろまで、筋肉質なくせに女々しいんですって。学生時代から、そうだったのよ。修学旅行のバスの中でだって、あたくしが将来ババァになるからと言って、ババ抜きに混ぜてもらえなかったのよ。失礼しちゃうわ」
ノゾミが半巾を噛み締めた。
今にも前歯が半巾を引き千切りかねない。