貴女は私のお人形
第4章 それでも、どんな真実があったとしても、
「田中さん」
純の美しい声がノゾミを呼んだ。
「仮に貴方が、本当にのろまで女々しいとするわ。貴方に悪気はあるのかしら」
「あるはずないでしょう!そもそもあたくしは、のろまじゃなくてエレガント。女々しいんじゃなくて、かよわいのよ」
「貴方は、それを誇りにしている?」
「エレガントでかよわくないあたくしなんて、想像出来る?」
「……それが田中さんのポリシーなのね」
乙愛は、純とノゾミを交互に見る。
イベントの命題とはよそに、ノゾミが持ちかけた相談は、乙女らしさとはかけ離れている。これでは職業安定所向きではないか。
「貴方が現状を不満に感じていることも、信念をお持ちになっていることも、分かったわ。……人間関係と収入、もしくは信念。貴方は、どちらかを諦めることね」
「何ですって?!」
「中途半端なの」
「あたくしのどこが?!」
「かよわくエレガントに振る舞うことが、貴方の在り方なら……貴方自身が、きちんと自信を持てば良い」
「──……」
「蔑視や偏見がどれだけ恥じらうべき愚行か。貴方の周囲の方々は、残念ながら、ご自分の稚拙で短絡的な本質に向き合えるだけの器量はないよう。だから貴方が上司や後輩に認められて、友達を作って、会社から正当な評価を受けたいなら、貴方から譲歩する必要がある。貴方に非はなくても。彼らの求める人間像に、貴方が近づく努力をしなくては。それが現実の世の中だわ。彼らの必要としているものが、かよわくもなければエレガントでもない人間なら、貴方はそうなるべきなのよ。貴方が貴方でなくなるしか」
「…──っ。どうしろって言うのよ!あたくしは友達も欲しいし、収入も欲しい!だからって凡人になっちゃったら、生きる希望はどうなるの?!あたくしの人格は否定されるの?!」