貴女は私のお人形
第4章 それでも、どんな真実があったとしても、
「人格は、他人に否定出来るものではない。どれだけねじ伏せたって、強制したって、私達生きとし生ける者は、自分自身を失えない」
里沙とあずなが、真剣な顔で頷いている。すずめに関しては、大きな黒目に溢れんばかりの銀河が覆っている。
「人間は皆、多分、嘘つきなの。皆、嘘をついて生きている。それで良いの」
「善人も?」
「善人に見える人間の方が、より嘘つきではないかしら」
純が、ノゾミに笑った。
「貴方が凡人だと言う、世渡りのお上手な方達だって、同じだわ。きちんとスーツを着こなして、背筋を伸ばして、綺麗な言葉遣いをして懸命に仕事に取り組む姿が、必ずしも皆本物だと、私には思えない」
「彼らに隠れた顔があると?」
「何かの嘘と引き換えてでも、自分を守っていなくては、こんな汚い世界だもの。生きられないわ」
「……そうまでして、生きたいの?」
「生きるための理由が、僅かにでもあるなら」
「…………」
「死ぬ理由がないなら、生きるしかないわ」
皮肉だ。
皮肉な理論を口にしてまで、純はノゾミを立ち上がらせようとしたのだろう。
どこまでが純の本心か、乙愛には分からない。
嘘と、引き換えてでも。…………
そうまでして生きたい理由がある限り、やはり命ある者は皆、穢れてゆくものなのか。
純は歌うために、ノゾミは洋服を着るために、現世にとどまっているのか?
されど、純は綺麗だ。
彼女とてその理論の通り、何かのために何かを犠牲にしているのかも知れないが、それでも綺麗だ。