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貴女は私のお人形

第4章 それでも、どんな真実があったとしても、



* * * * * * *

 涼やかな焔の色が空を満たして、穏やかな風が草木に子守唄をささめく時刻、乙愛はすずめと本館を出た。


 昼間の日盛が嘘であったかのように、景観は陰に落ちていた。黒に近い、無辺の青の気配が近づく。



 純との余韻が、乙愛の耳の奥をからかっていた。

 昨日のお茶会での純の戯れ。カラオケルームでの誘い。そして、今日。…………


 何故、純はあれだけ乙愛に構う?

 ともすれば以前から顔見知りでもあるように、屡々、純は乙愛に親しげだ。


 嬉しいのと同じほど、怖い。


 愛おしさが募れば募る分、不安が伴う。
 いだくことすら罪な期待が、乙愛に押し寄せるからだ。

 夢のような一週間が過ぎてしまえば、純はまた、乙愛が一方的に想い、慕うだけの、赤の他人も同然になる。

 どれだけ今、距離を縮めたとしても、乙愛は純の来し方のひとひらにもなれまい。


 いつか味わう喪失が、些細なものである内に、いっそ乙愛は純に飽きられてしまいたい。



 つと、すずめが足を止めた。


「すず姫……?」


 乙愛は、すずめが何か落としでもしたのかと思った。だが、彼女の荷物はティーカップ型のポシェットと、ビンゴ大会の戦利品だけだ。



「どうかした?」

「あ……」


 心なしか、数秒、すずめの目が泳いだ。


「どうもしないわ。それよりおと姫、お願いがあるの」

「お願い?」


 乙愛はすずめと目が合った。

 普段と何ら変わらない、無邪気な彼女だ。


「ええ、お願い」

「何かしら?」

「これ」


 すずめがポシェットから引き出したのは、封筒だ。

 白地に淡いピンクのストライプが入ったそれは、宛先に、野原の苗字が含まれている。

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