貴女は私のお人形
第4章 それでも、どんな真実があったとしても、
「白、おと姫のが似合うもの」
「でも」
「獲得したのはすず姫よ。お洋服をどうしたいか、考える権利は、すず姫が与えてもらったの。おと姫に、着て欲しいのだわ」
「──……」
紙袋を抱いた乙愛の片手を、すずめの片手が緩く握った。
「おと姫に初めて逢った時ね、お人形さんみたいだと思ったわ。この世にもし天使がいるなら、その天使に愛されて愛されて綺麗になった、お人形のお姫様みたいだと思ったわ」
これではまるで別れの科白だ。
「大好きよ。おと姫はすず姫の、世界一幸せになって欲しいお友達」
「すず姫……」
「お洋服着たら、今朝交換したアドレスに、写メ送ってね!」
少し体温の低いすずめの手が、乙愛の手を離れていった。
すずめが森へ駆けていく。
夜の森は、魔物が口を開いたようだ。
ピンク色の混じったすずめの亜麻色の巻き毛を飾る、大きなリボンが、蝶のように揺れている。豪奢なパニエを仕込んだジャンパースカートは、サックスの生地にピンク色のドットチュールが重ねてあった。これだけ距離が開いてしまえば、遠目に見えるすずめが身を包んでいるワンピースは、サックス一色にしか見えない。
すずめの可憐な残像は、あっという間に残像でしか過ぎなくなった。乙愛の脳裏に、いつまでも焼きつく。
お姫様でお人形は、すず姫よ……。
後で、様子を見に行こう。
リュウもいない。明日の朝、すずめは帰路に着くかも知れない。今夜を逃せば当分会えなくなるだろう。身体の具合も気になるところだ。
乙愛は、純との約束の時間までに、すずめの部屋を訪ねることにした。
謎に包まれた手紙を両手に包み直して、乙愛は本館へ引き返す。