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貴女は私のお人形

第4章 それでも、どんな真実があったとしても、


* * * * * * *


 森の道が有限をなくすと、足が悲鳴を上げ出した。

 乙愛の姿は晦冥にとけて消えていた。



 すずめは、胸を撫で下ろす。

 不調は一人になる口実だった。口実だったが、今は嘘でもなくなっていた。息も上がって胸まで痛い。


 一本の大樹に背を預けて、すずめは大きな呼吸を吐き出す。


  
 リュウ様の、馬鹿。



 病による発作の気配を振り払わんと、すずめはリュウの笑顔を想う。

 炫耀した来し方を振り返ると、気が紛れる。気持ちを朗らかにしていれば、けだし悪いようにはなるまい。

 事実、昨日まですずめは幸せだった。

 昨夜、おとなしくコテージで兄の帰りを待っていたなら、すずめは今でも『乙女の避暑』を心から賞翫していたろうか。


 リュウを出迎えようと思い立って、森に入った。真っ暗だったすずめの目路が、赤に溺れた。


 すずめの視界に、赤いペンキが──…否、もっと禍々しい、もっと尊い何かが、一秒より刹那の間に覆ったように。


 人間の心臓を機能させる色彩だった。





 幹を離れて指を伸ばす。樹皮の剥がれた背凭れは、美しい、深紅をしていた。

 もっとも、すずめが触れても、乾いた感触しかない。皮膚に赤は移らなかった。


 されど、赤い。

 視界が赤く、赤く染まる。


 甘く鉄の錆びたような匂いが、生ぬるい風に運ばれてくる。すずめの身体にまといつく。


「う、……っ」


 疲弊していたのも失念して、すずめは駆け出す。



 この森から抜け出さなければ。

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