幸せの記憶
第1章 ☆幸せの記憶
この地は雪深いので、窓の掃除は雪解けの春から夏に掛けて行うことが多い。
ひとりだから随分時間が掛ってしまったけれど、GW明けぐらいから僕は家中の窓を拭いて、網戸を掃除し、障子も張替えて。
そのため、家の中が何となく明るくなったような気がしていた。
本当なら畳替えをしなければならない季節なのだけれど、それは来年に持ち越しにすることに決め、畳の上に買ってきたゴザを敷いた僕は、い草特有の清々しい青臭さに夏の季節の到来を感じ、胸いっぱいに吸い込んだ。
物置から出してきた蚊帳に、掃除機を掛けてぞうきんで拭いていく。
熱帯夜といわれるぐらいの寝苦しい夜は、大暑から立秋―――七月後半から八月の頭辺りの間の一週間ぐらいしかなく、古いこの家にはクーラーというものはなかった。夏の夜は蚊帳を吊り上げ、縁側を開け放してこの座敷で寝るのだ。
幸い縁側の外の庭は道路に面してはいないため、空巣の心配はあまりなく、この部屋は風の通りがいい為過ごしやすかった。
蚊帳の中で眠るのはなぜか不思議な解放感があって。子どもの頃の夏休みにこの家に遊びに来る度に、蚊帳の中で寝るのが僕の楽しみだった。
それは、秘密基地の中にいるようでワクワクした僕の子ども時代のいい思い出のひとつだ。