幸せの記憶
第1章 ☆幸せの記憶
扇風機を準備し、蚊帳を出す。箪笥から出した浴衣は陰干しにし、なんとか夏仕度を終えた僕は、家の中で一番風通りの良い座敷でゴロンと横になると、夏の匂いがする縁側を眺める。
昨日は僕が営んでいる書道教室の競書の月例作品の提出日だった。
生徒ひとりにつき三枚ぐらい提出してもらっている作品から、本部に郵送する一枚を選ぶ。
作品はどれも力作ばかりで、郵送する一枚を決めるのに深夜まで掛かってしまってしまい寝不足だった。
―――今日は一般部の書道教室の日だから、そろそろ準備しないと・・・
鼻を満たすい草の清々しい香りと、外の喧騒から少し外れた心地よい静寂に、とろりとした睡魔に捕らわれた僕はそのまま眠ってしまったのだ。