幸せの記憶
第1章 ☆幸せの記憶
―――あの少年は僕じゃない。
なら、いったい誰だろう。
何度も何度も繰り返して練習している文字が気になった僕は、僕によく似た少年の手元を覗き混んでみる。
その時。
カタン―――そう、縁側の方から音が聞こえた――――・・・。
『せんせー、いますかぁ?』
音がした方に目をやれば、縁側には蒸かしたさつま芋を手にしたお下げ髪の少女の姿があって。
『……』
『せんせー、いるじゃないですか!また根詰めて練習してるんでしょう。だめですよ!休憩、休憩!』
『……』
この少女の姿には何となく見覚えがあるような気がした。でも、誰だかすぐには僕の頭に浮かんでは来なかった。
声を懸けられているのにも関わらず、少年はその声を無視して書き続ける手を止める気配は無い。
でもさっきから文字の線が荒れていて、耳が赤くなっているのを見れば無視しきれていないのは一目瞭然で、なんだかちょっと微笑ましかった。