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幸せの記憶

第1章 ☆幸せの記憶

 
 暫くすると白い霧が晴れてきた。若い祖父母のことが気になった僕は、二人の姿を良く見ようと目を凝らした。
 でも、目の前に広がっているのは、誰も居ないしん、とした座敷で、さっきとは少し様子が違っていた。
 そこには書道の練習をしている少年だった祖父の姿も、さつま芋を手にした少女だった祖母の姿もなく、今度は中学生ぐらいの男女の姿が見えたのだった。

 男子の方は凛々しい詰襟姿、女子の方は初々しいセーラー服姿だ。その二人はもしかして……。
 
 
『せんせー、学校いきましょう』
『みつ、いい加減“先生”は止めてくれないか?あと、なんでお前は玄関からじゃなくていつも縁側から入ってくるんだ?』
『せんせーの支度が遅いからです!それに、玄関から回るよりこっちからの方が早いし。あと……文字が書けないでいた私に字を教えてくれたのはせんせーだもの。だからせんせーはせんせーなんです』
 
 
 ―――やっぱり……、な。
 
 
 うちの祖母は明るくて天真爛漫なひとだったけれど、それは子どもの頃からだということが証明されて、同時に、昔から祖父が尻に敷かれていたということも良く分かった。
 
 

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