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第1章 ただいまの季節



A side


「泣かせてごめん。
 放ったらかしにしたことも…。」


思い返せば、いくらでも原因はあった。

本音の話が出来る先輩が出来て、
最近は飲みに行くことが増えたこと。
大学の友人と近況の報告がてら
遊びに行ったこと。

和との先約と被ってしまった時も
「俺とはいつでも会えるんだから、
 そっちを優先してあげなよ。」
って、そう言ってくれた和の優しさに甘えて…。


和が寂しがりやだって、分かってたはずなのに。
和は分かってくれるって勝手に思い込んで
おざなりにしてしまってた。


「一緒にいても、遠かった…。」


小さい小さい声。
でも、確かに俺の耳に届いた。


「前のアパートの時とは、相葉さんも
 俺も置かれてる環境が違うって分かってる。
 付き合いもあるって。

 確かにここのほうが便利だよ。
 駅もコンビニも会社も近い。

 でも…。
 でも、前のアパートの方がよかった。」
「和…。」
「狭いし古いし不便だったけど、
 でもずっとくっついていられた。」


6畳ほどしかなかった部屋は、テレビと
机を置けばあっという間に埋まって
座る時は常に隣だった。

それがこのマンションに引っ越してからは、
テレビを置いても机を置いても埋まらなくて
隣に和の体温を感じることも少なくなった。

広くなったし、綺麗になったし
便利にもなったしって…。


何も和のことを分かってなかった。

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