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こじらせた初恋

第6章 久しぶりの部屋

智 side







「翔!!ケーキ取りにきなさーい」



ビクっとからだが揺れて、お互いに離れた。



おばさんは、1階から大きな声で翔くんを呼んだ。



気まずい空気が流れる。



翔くんの方を見ることができない。






翔「……ごめん」



智「……ううん」



翔くんの謝罪にがっかりした。



何が、がっかりしたって、キスを望んだこと。



翔くんがそんなことするワケないのに。



智「俺に会えなくてそんなに寂しかったの?」



努めて明るく言うと、翔くんはばつの悪いように笑うと、一階に降りて行った。



はあ、と息をした。ずっと息を止めていたような気がする。



深呼吸をしながら、さっきの出来事を思い出す。



翔くんの体温を思い出しては、恥ずかしい気持ちになる。



抱きしめられてしまった、翔くんに。



高校から極力触れ合わないようにしていた。



再会して、コレといって触れ合うことなんてもちろん無かった。



はあ、とまた息を吐く。



翔「ため息?」



声にビックリして、その方向を見る。



智「ふふ。翔くんどこ?」



そこには、おぼんにてんこ盛りのお菓子をのせて、向こうが見えなくなってる翔くんがいた。



翔「ここにいるよー」



お菓子の横から、顔を出した翔くんの笑顔は、いつもの翔くんだった。



ほっと安心して、胸をなでおろした。



あれ?翔くん。



智「髪濡れてるよ」



前髪の一部が濡れて束になっていたので、手を伸ばした。



すると、サっと振り払われた。



俺はビックリして、傷ついた顔をしてたんだと思う。



翔「ごめん、急に触ってきたから驚いちゃって。顔洗ったんだ」



だから気にすること無い、とでも言うように、翔くんは笑顔だった。



さっき抱きしめてくれた翔くんは、いなかった。




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