硝子の指輪
第1章 厚い唇
「ほんとに何もしてないんですか?」
私は少しの期待を兼ねて言った。
彼は無論、
「何もないよ」
と言う。
だが、少しだけ期待を寄せて何度も聞く。
「先輩、ほんとですか?」
「…ああ」
「なんで目をそらすんです?」
ちょっとだけ意地悪だ。
だってここまで来れたのは多分私の裏側の何か、要するにチャンスを与えてくれたんだ。
「んあー!もういいよ!キスはした!キスだけ!他はしてない!」
「…、先輩嘘とかダメですよ。てか、先輩には居るんですからね?」
彼女さんという名の奥さんが。
「…まあ、その…ごめんな」
「いえ別にいいんです。好きな人とかいないので」
あー私も嘘ついちゃったなあ。
でもに気付かれるとかそういうのはきっとないからいいや。
何より思い浮かべてた厚い唇はかなり濃厚だった記憶が。
急に頬が熱くなった。