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千年の花嫁

第10章 不器用な愛情

そう、目の前で母親の手によって父親が刺され死亡し。

その母親も、すぐ自分の胸を刺し息絶えて。

5歳になるちょい前だった郁人は、茫然と両親の遺体の前で立ち尽くしていたという。

それからは誰が話しかけても口を聞かず、数日後。



藤「お前、何をやっているんだよ?」

河「燃やしてるの」



家ごと、親を焼き払いやがってさ。



藤「どうして?」

河「こうしたら天に昇って神様が新しい居場所へ連れて行ってくれるんだって」

藤「だれがそんな事を」

河「お母さん」



気が狂った郁人の母親は、毎日のように自分が死んだら燃やしてくれとそう言っていたらしい。



戸「確かに人間には遺体を焼く風習があるけど、それをそんな小さな子供にやらせるだなんてやっぱ狂っている」

橋「郁人は昔ぜんぜん笑わない子だったらしいよ手を差し伸べた人もいたみたいだけど拒んじゃってさ」

戸「五関もそうだったな」

橋「えっ」

戸「あいつ苛められっこでね俺は見てられなくて」

橋「それで、お友達になってあげたの?」

戸「親同士が同じ会社だったし、フッ」



俺は何度も親父に頼んだ、あいつを引き取らせてくれと。

だが―



「我ら一族に何人孤児がいると思っている」



いちいち情けをかけていたらキリがない、そう言い。



北「それで太輔が長になってから孤児院を作ったってわけか」

藤「そのリーダー格に郁人を抜擢したのは、あいつに笑顔を取り戻して欲しかったから」



自分と似たような身の上の子たち、その中で郁人は変わっていき確かに明るくはなった。

が、心の中は。



藤「嫁さえ貰えば、その傷も癒え心から笑えるようになってくれるんじゃないか」



そう思ったから嫁入りを許可したのに、頼む五関 気づいてやってくれ。

あいつの孤独に―




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