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千年の花嫁

第1章 はじめに

その村の言い伝えによると、そこでは遙か昔、世の中で争いごとが絶えず繰り返されていた戦国時代。

村が最大の飢饉に遭い、人々が絶滅の危機に陥ったことがあったそうです。

が、そのとき1人の少年が1匹の狐を助けた事によって村が救われ。

その助けた狐こそが天狐、のちの空狐の息子であったことから以後、村人たちが安心して暮らして行けるよう見守ってくれる事になったというのです。

けれど、ここで予想外の事が起きてしまいます何と助けられた狐がその少年を好きになってしまったのです。

ぜひ息子の嫁に、そう願う天狐に戸惑う両親。

「我が子は紛れもなく男、子など出来るわけがない」そう言うと、天狐は更に驚くべきことを言い出します。



天狐「我らは妖の一族なり子は人間の男によってでしか成せぬ」



神隠しという言葉があるが、あれは気に入った者を見つけたその一族が拐い嫁にした事によるものだと。

そんなバカな男がどうやって子供を、両親の問いに天狐は答えます。

嫁になった人間は、初夜を迎えた日より我らの妖力により女体化していき完全なる女となったとき子を成して生む。

また神社の奥その裏にある妖狐の敷地内に入った瞬間、人間界の者達はみな徐々に彼のことを忘れていき3日後には全ての記憶を無くしてしまうとも。

その言葉を聞き、絶句する両親。

それは、愛しい我が子との永遠の別れを意味しているのと同じだったからです。

しかし相手は妖狐、拒むことなど出来ないと村人たちに説得され泣く泣く我が子を手放す決心をします。

それは少年が16を迎えた年の頃。

それからというもの、この村には争いも災害すら起こらず平和な毎日が続いたのだそうです。

以来、神隠しに遭った者は狐の花嫁になったと言われるようになり今日まで至っているといいます。

何故ならば、妖狐の寿命が長いのに比べ人の命は短く1000年以上の時を経た今でも彼らの嫁捜しは行われているのだろうから。

あのとき、少年を嫁にした狐が現在も存在しているとしたら確実に天狐になっているはず。

いや、もしいなかったとしても彼の子供が天狐として今もあの稲荷神社の奥、裏稲荷に潜んでいるのかもしれない。

そんな伝説が親から子へ、そのまた子へと語り継がれている。

それが稲荷村―

妖狐に護られて暮らす人々が住まうところなのです。




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