テキストサイズ

千年の花嫁

第4章 2つの種族

・北山side

ニカがいなくなった日から、数えて3回目の夜が来た。



北「母さん御飯の準備できたから一緒に食べよう」



けど、まだ忘れていない。



母「あら宏光、茶碗が1つ多いわよ」



忘れるもんか絶対に。



北「いいんだってこれで」

母「おかしな子ね、クスッ」



自分の部屋には、そこらかしこに名前を書いた張り紙が貼ってある。

ニカ、ニカ、ニカ、俺の可愛い弟。

心の中で、まるで呪文の如くその名を呟き。



北「親父は今日も帰りが遅いの?」

母「ええっ、仕方がないわ、いろいろ仕事が立て込んでるみたいだから」



でも母さんの中には、もうニカの記憶はない。

実の父親でさえ…



北「じゃ次はお風呂、沸かして来るな ニコッ」

母「昨日からどういった風の吹き回し?宏光がお手伝いをしてくれるだなんて」

北「変?」

母「いいえ凄く嬉しい」

北「ならいいじゃん、フッ」



嫌なことから逃げ出したいって気持ちが、無くすのを早めたのか?

それとも罪悪感からか…

けど俺は2人を責めることなんて出来ないわ、もうすぐ自分も。



母「勉強は進んでる?」

北「心配しなくても大丈夫だって」

母「ごめんなさいね、こんな事になってしまい」

北「いいって言ったの親父、引っ越すこと」

母「それが、まだ」



2人の前から、いなくなってしまうんだからさ。



北「もし賛成してくれなかったとしても俺は母さんについてくから思った通りにすればいいよ、ニコッ」

母「ありがと」



だから嘘だって平気でつく、母さんを安心させる為だったら俺は。

太輔、そこで見ているんだろ?だったら教えてくれ。

3日経つと記憶を無くしてしまうのは、妖狐の神通力によるものなのか?

もし、そうならお願いがある。

俺がそっちへ行ったなら、すぐにでも母さんの記憶をなくして欲しい。

これ以上、辛い思いをしないよう自分の為に涙を流さなくて済むように。

それが、俺が出来る最後の親孝行だから。



藤「分かった、フッ」



と、確かにそのとき俺の耳には太輔の声が聞こえたような気がした。

ありがと、フッ




ストーリーメニュー

TOPTOPへ