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千年の花嫁

第5章 真の伝説とは

・北山side

赤い満月の夜、少年は御輿に乗せられ神社の前に連れて来られる。



「すまんの人身御供のようなことをして」



辛そうにそう言ったのは村長だろうか?少年の両親はいない。



「よく参った花嫁よ他の者達は立ち去るがよい」



それから、天狐の声で付き添っていた村人たちは帰り神社の扉が音も立てず静かに開く。

同じだ、俺のときと。

そこへ引き寄せられるかの如く入っていく少年。

太輔に会える…

このときの少年は嬉しさでいっぱいだったんだろう、表情は明るかった。

でも、連れて行かれた所は。



「これより我らが長の婚礼の儀を行う」



どういう事だ、これ!?



「親父、待ってくれ」

「太輔」

「なりません 若、大切な婚儀の場ですぞ」

「そいつは、そいつは俺の」

「なんだというのだ人間界で一緒に遊んでいただけであろう」

「そっ、それは」

「取られたくなければ自分のものにしていれば良かったものを情に流されおって」

「くっ」

「だからお前は甘いというのだ、いずれは長となる身もう少ししっかりせい」

「まさか、その為に」

「そうだ、一度わからせてやろうと思ってな」

「親父、クッ」

「よいか太輔、我らはこうでもしなければ子は作れぬまして、お前はなおのこと長の血筋を絶やさぬ為に父や一族の者と同じように人の子を嫁にしなければならぬのだ、なのに今だしようともせん父が見本を示すゆえ早よ嫁を貰い子を作れ、よいな」



酷い、親が息子の好きなやつを奪うだなんてよ。



「いざ誓いの杯を」

「よせ、やめろぉーっ」



太輔の悲痛な声が響き渡る。



「太輔、たい…んんっ‥んぐふっ」

「それを飲むんじゃねぇ」

「無駄だ、さぁ少年よ約束したであろう我の言うことを聞くと飲めば息子がいるここでずっと共にいられるぞ」

「ん…っ‥ゴクン」



あれを飲むと、どうなるっていうんで。

だが、それはすぐに分かった。



「やっやっ、太輔、助けて、やだぁーっ」



泣き叫ぶ少年の声―

その部屋の扉の前で、頭を両手で押さえ込み床にうずくまり唸るような声を出し続けている太輔。



「うああ、くっそぉーっ」



その苦しそうな姿は、あまりにも痛々しく俺は涙が溢れて来る。




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