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好きにさせて

第12章 嘘


そう言った茜の声は
あまりにも弱々しく
か細く
囁くような声だった


言い終わると
顔を手で覆い
しゃくりあげて
泣き出した茜は

今にも
壊れてしまいそうで

さっきまで
触れることを躊躇っていたのに
俺は
茜を身体ごと
優しく抱きしめていた


茜は
わずか二、三週間で
こんなにも?
と思うほど痩せていて
俺までも泣きそうになりながら


『そんなこと』


そう言いそうになって
俺は口を噤んだ


その時
全ての謎が解けたからや


離婚の理由は
多分それで

自分は
子供を産めないから
いわゆる
高齢出産という
出産し辛い年齢になるまで
恋人を作らず

再婚相手も
子供を望まないくらいの
年齢が対象


俺はまだ若くて
子供が欲しいと言いかねない

…多分。


それならそうと
早う言うてくれたら
よかったのに


『そんなこと』

気になんか
せぇへんのに



けど

『そんなこと』

と言う言葉は
禁句やと感じた


茜にとっては

『そんなこと』

ではない


『そんな大事なこと』

に違いなかった



俺を不幸にしたくない


きっと
離婚する前に
旦那とも
その親御さんとも
色々あったんやろう


そんな思いを
多分
俺にさせたくない思いで

茜は俺に
嘘ばかり
ついてきたんや



俺は

一人で頑張ってきた
そんな茜が
愛おしくて

身体を小さくする
茜の背中を撫でながら
優しく抱きしめ続けた



「茜…


もうそない
泣かんでええ


嬉しかったで

そない大事なこと
話してくれて

俺を好きでおってくれて

俺に
気いつこうてくれて



子供のことは



これから
ちゃんと

しっかり考えていこ」

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