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桜花楼の恋

第2章 最初の試練

戸「これ渡しておく」

北「なんでぇ?」

戸「軟膏、塗って貰わないと痛いんだ」

北「‥‥っ」

戸「男は女と違ってすぐには濡れないし」

北「んだか、フッ」



一言ひとこと、絞り出すように話すトッツーに俺の心も痛む。



戸「あと」

北「んっ?」

戸「いいお得意さまを見つける事、それによって自分の立場も変わる」

北「どういう意味」

戸「どこかの大店の旦那さまとか」

北「金持ちをってことか」

戸「うん、下っぱは安い値で買うことが出来るぶんガラの悪い奴とか町人などそれなりの生活をしている連中の相手もしなければならない」



何が言いたいん?



戸「早く太夫になること、そうすればそういった連中の相手をしなくても済むしだいぶ身体も楽になる」

北「そうじゃない間は」

戸「1日に何人もの相手をしなければならないから大変なんだ」



それをお前は、どれくらいやっていたんで?トッツー



戸「いいお得意さまを見つけるって事は太夫になれるってことなんだよ」

北「そしたらどうなる?」

戸「番頭連中も郭の稼ぎ頭の太夫に対しては礼儀を弁えて接するし、いろんな意味で融通が効きやすくなる」

北「この世界もいろいろとあるんだな、フッ」



だから、あの番頭トッツーに対してはあんな丁寧な言葉で喋っていたってわけか。

それからの数日間は━



戸「客への接し方は傍で見ていれば覚えられるよ、そんなに難しいものじゃないし」



そう言われた通り、俺は見よう見まねで酌の仕方などを会得して。

とうとう、その日がやって来てしまう。

朝、目を覚ますと腹が立つくらい外は良い天気だった。

自分の気持ちとは裏腹に━




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