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桜花楼の恋

第17章 過去の幻影

・横尾side

3月の半ばになり、陽気は少しずつ春らしくはなって来たものの気温の差はまだ激しく。

そんな中、俺は裕太が無事に加賀へついているのかが気になっていた。

あれからニカへの文はない、飛脚の足では急いでも届くまでに数日は掛かる。

そうすぐには来ないだろうことは分かっていても。



横「尾張の屋敷の様子は」

高田「今のところ何も」



おかしい心配じゃないの?

あの日、屋敷から早馬が飛び出して行ったのを翔が確認してからもうひと月は経つ。

なのに、まったく動く気配すらないのはどう考えても変だ。



高田「飛びましょうか加賀に」

横「急ぎ頼む」

高田「ならば馬を使います」

横「構わない」

高田「はっ」



が、そのときだった。



番頭「失礼いたします先様文が届いておりますが」

横「俺に?」

高田「‥‥‥」



誰から?

疑問に思いながらも読んだ文面には。

“今は動かない方がいい”



高田「如何なされました」

横「…翔」

高田「はい」

横「さっきの件はなかった事にする」

高田「なっ、何ゆえ?」

横「どうやらわざわざ行かなくとも事情を知っている者が俺たちの傍にはいるらしい」

高田「はあっ?」

横「ふっ」



どういうことか、説明して貰おうか。



横「ちょっと出掛けて来る、お前はミツの傍にいてやってくれ」

高田「かしこまりました」



そして、向かった先は。



「来たね待っていたよ」



にこやかに笑うその顔に、悪意は感じられない。

いや、そうだったら仲間として今日まで一緒にやって来たりはしないさ。



横「裕太は?宮田に健永、一座の連中は何処にいる」



じゃ、どうして?



「心配しなくても安全な所で時が来るのを待っているんじゃない」



なんの理由があって、こんな事をしたわけ?




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