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桜花楼の恋

第24章 暗雲の兆し

・北山side

夜、静まり返った暗闇の中で畳の上に座りながら。

俺は、ただ襖の向こうの様子をジーッと伺っていた。



京本「姫様ご自分の部屋へ戻りましょう」



そこに、藤ヶ谷と雪がいる。



北「独りにしてくんね」

安井「しかし」

北「頼む、ここにいたいんだわ!クッ」

京本「…分かり‥ました」

安井「大我!」

京本「姫さまが望まれる事をお助けするのが我らの務め今は仰せのままに」

安井「くっ」

京本「ご用の際はすぐお傍へ参ります、お声を」



いつも、ありがとな本当にこいつらは行き届いてる。

あのときだって万が一の事を考え、あんな大金を持ち歩いていたらしいし。

歳のわりにはしっかりしているわ。

と、そのとき。



藤「参ったな」

雪「‥‥‥」



ボソッと呟くような藤ヶ谷の声に、俺が襖の方へ視線を向けると。



雪「やはり私では無理ですか?」

藤「悪い」

雪「お気になさらず」



それって…



藤「が、これじゃあ今夜はでき」

雪「いえ初めが肝心と御台様から言われております」

藤「‥‥っ」

雪「このような場合どうすればよいのかも」

藤「ちょ…おい‥雪…」



なっ!?

その沈黙が、いったい何を示しているのか考えなくとも分かった。



北「くっ」



微かに聞こえて来る藤ヶ谷の息遣いが、そうであることを証明していたから。

思った通り暫くすると。



雪「これなら大丈夫かと」

藤「おまえ」

雪「唐突な事をしてしまい申し訳ありませんでした」

藤「いや」

雪「でもこれ以上は私も、あの初めてなもので」

藤「もっ、いい!クッ」

雪「‥‥っ」

藤「すまない、こんな事をさせてしまい」

雪「若君さま」

藤「身体…震えている‥」

雪「へっ、平気です私は」



藤ヶ谷…



藤「後は俺に任せていればいいから、フッ」

雪「はい」



それは、凄く優しい声で徐々に聞こえて来る雪の切ない吐息に俺の心は張り裂けんばかりに悲鳴を上げ。

覚悟していたとはいえ あいつの手が他の、それも女の肌に触れているのかと思うと。




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