テキストサイズ

桜花楼の恋

第5章 広がる不安

・横尾side

俺の家は、代々藩の筆頭家老を務めている。

だから、いずれは自分もそうなるだろう。



横「少しは落ち着いた?」



つまり、城主の嫡子として生を受けた太輔とは言ってみれば幼馴染みのようなもん。



玉「うん、まぁね」



しかし…



藤「堅っ苦しいのは嫌いだ、そんな言葉遣いをするなら傍にいなくていい」



幼い頃より、太輔は尽く自分に仕える小姓達にそう言い。

困り果てた重臣たちが、家老の嫡男である俺を傍につけ今の奇妙な2人の関係が出来上がったというわけさ

どこに、自分の主君の嫡子を家柄とは全く違う姓で呼ぶ家臣がいるだろう。

が、これには理由がある。

藤とは藤の花を示し、谷は太輔が初めて恋をした思い出の場所という意味。

それに、自分の本当の名を合わせ藤ヶ谷太輔。

そう呼べと俺は言われ加えて絶対に敬語で話すなとも、そりゃあ初めは驚いた。

けど今では、あいつのことを本当の弟のように思っている。

もちろん、裕太のことだって。

いや、こいつの場合はもっと特別なのかもしれないな。

ふと最近、そう思うときがあるんだ。

太輔が遊郭に行ってしまった後あたりから、寂しそうな姿を見ていて。



玉「でも、まだやっぱり気分よくないよ」

横「気持ち分からなくもないけど」

玉「俺が養子に貰われたのってガヤが離そうとしなかったからなんでしょ?なのにさ」

横「裕太は旅回りの一座の座長の息子だったんだ確か兄貴がいたはず」

玉「顔なんて覚えてない小さかったし」

横「会いたい?」

玉「分からないよ、そんなの考えた事もないから」

横「裕太」



だろな、フッ

太輔のハチャめちゃぶりは大名の間でも知られている、風変わりな若様だと。

だから、そんなあいつに例の話しが来たときには誰もが驚いたもんさ。

それも、最有力候補と聞き俺は江戸城の連中の頭の中を一度かち割って見てみたいと思ったほど。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ