
愛すると言う事…
第1章 episode 1
楽しそうに笑みを溢した店主は、『初顔だね♪』と櫻井翔に笑顔を向けた。
翔「今口説いてるとこ」
雅「へぇ♪…まぁ翔ちゃんっぽいよね♪」
翔「何だよ、俺っぽいって(笑)」
雅「んー…翔ちゃんが連れてそうって事♪」
天井を見上げてそう言った店主に、櫻井翔はまた小さく笑みを溢した。
テーブルに並んだ色んな摘みを口に運びながら、ビールを飲んで。
目の前の男は他愛ない話ばかりをしていた。
智「……"生きる理由"って、何?」
やっぱり折れたのは俺の方。
あの日の話を、スッキリさせたいからそう聞いたのに、目の前の男は小さく微笑み。
翔「何歳?」
智「……は?」
翔「智は、今何歳?」
智「………今、関係あんの?」
同じ世界で働く俺たち。
未成年だなんて、言えるはずがない。
翔「…お前、高校生だろ?」
智「………」
翔「まぁ、今年卒業だろうけど…未成年なのには変わりない」
智「………」
翔「心配すんな。別にそこは重要視してない。うちに誘ってんだ、そんな事どうでもいい」
智「…だったら何?」
翔「若いうちは"生きる"なんて考えた事もないだろ。でも、お前はこんな夜の闇の世界で生きる為に働いてる」
智「………」
『そうしなきゃなんないんだろ?』って、ビールを口に運んだ。
ただ単純に金欲しさに働いてるのか、そこまで稼がなきゃならないから働いてるのか…
恐らく後者だろうと櫻井翔は言う。
何の為に金がいる?
生きる為。
じゃあ何故、生きる?
生きなきゃならない理由がある。
…違うか?
櫻井翔は、淡々と…でも優しい声でそう話していた。
智「…俺には、小遣いをくれる親が居ない。生活費を稼ぐ親父も、飯を作る母親も居ない。……なら、俺が働いて金を稼いで食っていくしかない」
翔「…うん」
智「…両親が居ない俺を、親戚の奴らはタライ回しにした。挙げ句、じいちゃんが死んで間もないばあちゃんに俺を押し付けた」
翔「…うん」
智「…ばあちゃんは必死で俺を育てた。反抗期で家に帰らない俺に、怒る事もなく…」
翔「うん」
智「…中学卒業して働くって言った俺に、ばあちゃんは初めて怒った。『このご時世だ。中卒程度じゃ生きてなんか行けない』って…」
翔「……うん」
