
愛すると言う事…
第1章 episode 1
『どんなんでもいい、しっかり生きろ』
ばあちゃんは、死ぬ間際にそう、声にならない声で俺に言った。
何故、俺は中身の知らない男にこんな誰にも言った事のない話をしているのか…
ポロリと溢れた、俺の中の俺。
話終わった俺に、櫻井翔は柔らかく優しく微笑む。
翔「"生きる理由"はあったな?…じゃあ、何故お前の目は死んでる様に見える?」
智「………」
翔「いくらおばあさんが"どんなんでもいい"って言っても、やっぱり幸せな人生を望んでるんじゃないのか?」
智「……だったら…櫻井翔の、"生きる理由"って何?」
翔「フルネームか(笑)……俺には、店に居る従業員を養う義務がある」
智「…その為だけ?」
翔「後は、まぁ……模索中(笑)」
智「…汚ねぇ。人には散々言っといて、最後にそれかよ」
翔「はは(笑)…まぁ確かにな。俺は自分を不幸だとは思ってない。だけど、幸せだと思った事もないから…幸せだと思える様にする為、かな?」
智「………」
翔「ちなみに…フルネームはやめろ」
智「……翔、さん?」
翔「何でもいい(笑)…とりあえず、俺の店に来て幸せだと思える様に生きてみないか?」
優しく微笑む櫻井……翔さんに、ドキッとした。
相手は男なのに、やたらと色気のある笑みを浮かべてる。
何だろう…
昼間は"生きる理由"ってヤツでモヤモヤしてたのに、今度は目の前の男の所為でモヤモヤする。
智「……ムカつく」
不貞腐れた様に呟いたら、翔さんが笑ってて。
『早めに今の店、ケリ付けてこい』って言うと、残ったビールを飲み干した。
それからもいろんな話を聞いた。
聞いた中でも衝撃だったのは、俺と同年代風に見えた翔さんは予想通り若く。
今は22歳で、店を持ったのはつい最近だって事。
翔さんも俺と同じ位の時にこの世界に足を踏み入れたらしく、貯まった金と上得意の客のお陰で店を持てたんだと教えてくれた。
【Club Night´s】は小さいながらもこの世界である程度有名なんだそうだ。
俺は知らなかったけど…
