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ながれぼし

第8章 in the water




大「今日は、まだこの世界に居たいなって。」

ふふ。と微笑んで

「この…世界?」


大「もう戻ることはないって、思ってたから。」

俺の疑問への返答はなくて

でも、大野くん言う"この世界"ってのは"水の中"のことを言っているんだろうなって



大「松本くんってさ。」

チャプ。とプールサイドに腕を乗せ
その上に乗せた顔が俺を見上げる。

「なに?」


大「この世界が怖い?」


「っ、」

ドキッとした。


大「この世界は好き?」

こてと首を傾け、なんとなしに聞いてくるようなそんな言い方。

けれど、
俺を見詰める瞳は、
何処までも何処までも深くて


「…ぁ………俺は…」



……

あの日から

ずっとずっと…水の中が
怖くて…怖くて……仕方がない んだ。


「……、…」
ぐっと頬に力が入り言葉にならない。


大「…」


好きな水泳に、泳ぎに集中していれば入れはする。
けれど、その目的以外となると話は違くて

今だに続く足枷のような恐怖。


「俺は……この世界が…」


大「そうだ松本くん。」


「…へ…?」

さっきとはまた違った、あっけらかんとした声に、下へと反らしてしまった視線を上げれば


大「ねね、見せたいものがあるんだ。
俺のこと引き上げて。」

そんな事を言い出して
んっ。と差し出された手。

「見せたい…もの?」


大「うん。そろそろ無くなっちゃうから早く早く。ほら手。」

ひょいひょい。と手招きするように
大野くんの手が呼ぶ。

「あ、…うん。」


その手に近づくように足を進め
ぎゅっ。と白い手を握り締めた。


暖かい手。


そう思ったその時だ。




大「おいで。」


!!




俺は大野くんの手に引かれ

水の中へと、落ちていった。



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