
ながれぼし
第8章 in the water
ゴボっ…!!
ゴボゴボゴボ……
ブクっ…
聴こえるのは、あの日の音。
足に、手に、頬に頭に触れる あの日の冷たい冷たい水。
見えるのは、あの日の真っ暗な淀んだ世界。
あの日と違ったのは…
『、…』
ふわりと、そして強く俺の頬を包む何か
な…に?
ブクブクと鼓膜に入ってくる音に
ドクンドクンと、体を揺さぶる音が合わさって
苦しい…
『……ぶ』
怖い…
『だい……ぶ…』
…誰か…
『大丈夫……』
…誰か助けて……
『大丈夫。絶対助けてやるからー』
ぇ…この声…
あの日の声。
両方の頬に貼りついたあたたかなそれに誘われるように、ゆっくり顎をあげれば
『んっ…』
唇に触れる
それはとても柔らかく、そしていてとてもあたたかいもの。
なに?と反射的に開いた瞼の、その先の世界。
ゆらゆら
ゆらゆら と揺れ
そこに現れた男の子。
……君は…あの時の…
あ。と思ったときには、その子はゆらゆらと光り姿を変える。
次に目の前に現れたのは…
大野くん…?
いつも見詰めてくる、綺麗な瞳は今は閉じられ、変わりにそれを縁取る長い睫毛が揺れる。
あまりにも近い距離に、俺は目を見開くしかなくて
『っ…』
コポ。と押し当てられた唇から、俺の口内へと送り込まれた空気。
コポ…コポ……
俺は、ただただされるがままに
上か下かもわからない"この世界"に身を委ねた。
