
ながれぼし
第3章 冬以上春未満
*
「さーとーしさん。」
一応さん付けでね。
大「…またお前か。帰れ。」
ここは大学の中庭。の隅にあるベンチ
「天気いいね。あー気持ちぃー。」
よ。っと座ったのは智の隣から離れた、ベンチの隅
大「…お前なぁ。」
ここは智のお気に入りの場所なのか出現率高め。
それに気が付いてからは、時々俺も来る。ほんと時々よ?
だってしつこいのは…ね?
「和也。だよ。」
大「…はぁ」
パタ。と閉じられた文庫本。
やった♪俺の相手してくれるってさ。
「何読んでたの?」
大「夏目漱石。の…坊っちゃん?」
くるっと文庫本をひっくり返して確認する。
「借りもん?」
大「そう。たまにはこんなのも読んでみっかなって。」
持ち主はきっと
「恋人の?」
大「そう。けどなー…今日は…天気良すぎて眠くなっちった…なぁ…」
そう言いながら、ぐいと腕を伸ばし大きな欠伸をした。
智は、俺が好意的な態度を取らなければ、普通に会話をしてくれる。
こうやって、普通に恋人の話だってする。
「パン食べる?」
恋人の話を聞いてダメージが無いわけはない。
けど、それよりも智と話せることが何よりも嬉しかった。
大「ん?何パン?」
「シナモンロール」
大「いいの?」
「いいよ。」
智の為に買ってきたんだ。いいに決まってる。
はい。と差し出した袋は、俺と智の間に置く。
大「さんきゅー。」
と、智は袋からシナモンロールを取り出した。
智の恋人は、隣町の大学にいる。智とは同い年だ。
別に調べた訳じゃないよ。皆知ってる。
智の恋人は男。隠すわけでもなく、寧ろ公にしている。
そして時々、牽制をするかのようにその男は智の周りに現れる。
本人。じゃなくて、今日みたいに本だったり、この前は腕時計だった。
あ、これ智っぽくないな。って思ったものは大抵恋人の。
それはまるで『智は俺のだから』と主張するように存在する。
「美味しい?」
大「ん、うまい。」
ただモグモグと咀嚼している姿でさえ
なんでこうも俺の心を鷲掴みにするんだろう。
智と出会って、俺に落とされた雷はもう数えきれない。
…ねぇ、神様。智は俺の運命の人じゃないの?
違うんだったら…何?
俺…この人が好きで欲しくてたまらない
「智。俺と付き合って」
大「はぁ…無理。」
