
ながれぼし
第3章 冬以上春未満
櫻「っ…!」
息を呑んだのは『翔ちゃん』
次に
「きゃぁ!」
と上がった悲鳴。
けれど…
俺の拳は宙に浮いたまま
…
くそ…!
『翔ちゃん』の肩を掴んで振り向かせた。
…その瞬間、脳裏に浮かんだのは『翔ちゃん』と居たときの智の笑顔。
…きっと
俺がこいつを殴ったら、智は悲しむ。
そう思ったら、振り上げた拳を下ろすことはできなかった。
櫻「びっ、くりしたぁ
……って?ん?…かずなり?じゃん。」
そうだよ。智につきまとってる和也だ。
ゆっくりと肩から手を離し、振り上げた手も俺の元へ戻った。
「…お願いだから」
櫻「ん?」
「お願いだから、悲しませないで…」
櫻「? なに?」
「智は、貴方のことが大切なんだよ。すごく…大切なんだよ。
だから…お願いです。
お願いだから、智を悲しませないでください。」
お願いします。と頭を下げた。
櫻「…」
俺…何やってんだろ
まさか『翔ちゃん』に頭を下げる時がくるなんて、つい1分前まで思いもしなかった。
…でも
智の幸せを守る為だったら、俺のプライドなんてどーでもいい。
そう、思ったんだ。
.
「ねぇ翔…」
不安そうな声。
ごめん。怖がらせちゃって。
櫻「…あぁ」
という声と共に微かに聞こえたスマホの操作音…?
俺はというと、頭を下げたは良いが上げるタイミングを見失う。
櫻「………あ、もしもし?俺だけど。
え?…おい、寝るな寝るな。
…うん……なぁ今から出てこれるか?…え?ちがうわ。かずなりだよ。かずなりが居んの。
うん…だから、直ぐ来いよ。いつものファミレスな。
あぁ…じゃまた。」
そんな言葉で終わった通話。
櫻「そう言うことでさ、ごめんな?
今度必ず埋め合わせするから。」
「ふふ。ううん大丈夫よ。また連絡するね。」
バイバイ。と明るい声で離れて行った女の人。
「…」
えっと…
櫻「かずなり。いつまで頭下げてんだよ。
周りから変な目で見られてるぞ。」
この間と同じく柔らかな口調。
正直、腰が限界だった俺。
『翔ちゃん』の言葉に甘んじる。
でも、やっぱり気まずくてゆっくり、ゆっくり頭を上げた。
その先にあった、良く良く見てもイケメンの顔。
そして…その顔は優しく笑ってて
俺は、どんな顔して良いのかわからなかった。
