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ながれぼし

第1章 きみのそばで



「全然気づいてなかったわ。」
ありがとう。と受け取った学生証。


大「…」

でも、大野という男は
無言で俺の前に立ったまま。

不審に思い見上げた顔は……怒ってる?

いや…怒ってるっつーより…


と、くるり。と体の向きを変えて教室から出ていった。


宮「…うわ、なんか緊張したー。」

「…」

あの顔…

なんか、すげー気になる。

宮「櫻井?どうした?」

「タケ、俺ちょっと抜けるわ。」
勢い良く立ち上がりすぎて、椅子がガタっと鳴った。

宮「え?!おい!もう講義始まるぞ?!」

そんなタケの声を無視して
教室のドアへ向かう。


どこだ?

てか、なんで追っかけてんだ。

わかんねぇ。けど、なんか今行かないといけない気がした。



……あ、いた…

外のベンチに ちょこん。と座っている。

ま、確かに華奢ではあるな。

カサ。と鳴った足音に気がついて、顔を上げる。


その顔が、一瞬泣いてるかのように見えて、焦った。
けど泣いてはなくて、俺を見てその瞳を大きく開く。

「隣座っていい?」

大「…え?」
キョロキョロと回りを見回す大野。

そりゃね、他にもベンチはあるけどね。

「きみの隣。に座りたいんだけど。いい?」

なんか…ナンパみてぇだな。なんて。

大「……どうぞ。」

少し、体を右に避けて空けてくれたそのスペースに座る。


ふわっ。と頬を掠めた風。
暑い夏が終わり、秋を感じ始めた気候が、心地良い。



「…」
大「…」

えーと…

気まずいな…


そんな空気を破ったのは
大「次… 講義、だったんじゃないの?」

「え?あ…うん。…初めてサボったなぁ。」

大「…そうなんだ。」

「そっちは?」

大「…俺も、初めてサボった。」

「マジか。」

大「マジ。」

「駄目だなぁ。サボりは。」

大「え?えー?櫻井くんもじゃん。」


「翔」

大「え…?」

「翔でいいよ。」


大「…翔。……くん。」

初めて呼ばれた名前。
あとから『くん』を付けた言い方が、なんだかこの人っぽいな。なんて思った。



大「俺は、大野智。」

智。か。
初めて知ったきみの名前

「んじゃ、智くんだな。」
そう言って、照れ隠しで笑えば


貴方は、ふわり。と嬉しそうに笑う。


それが、俺に初めて見せてくれた笑顔だった。

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