
ながれぼし
第1章 きみのそばで
偶然。つーのは重なるもんで
こんな時に、なんでだよ。って思うこともある。
「翔くん。」
女の家から帰る途中。呼ばれた名前。
振り向かなくてもわかる。
そう、呼ばれるようになってもう1年が経つ。
「…智くん。こんなとこでなにしてんの?」
振り向いて笑う。
そして貴方は
「うん。ちょっとね。」
と、ヘラっと笑う。
彼女と会ってたんでしょ。
つーか、俺
今、会いたくねーんだわ。
もくもく。と膨らむどす黒い感情。
わかってるよ。んなもん智くんには関係ないの。
そう思ってても、止めることができない感情。
大「翔くん?」
俺の様子がおかしいとか思ったのか
「どうしたの?」と覗く心配そうな顔。
思わず。いや違う。精一杯気持ちを押さえようとして、押さえきれない感情が、ギリリ。と歯を鳴らした。
「…なんでもねーよ。
俺、疲れてるから。」
押さえきれず強くなった口調。誤魔化すように手を振って足早に離れる。
智くんがその時どんな顔をしたのかは知らない。
ただ、智くんから離れたかった。
隠れるように角を曲がり、壁に背中を預けた。
膝の力が抜け、ずるずるとその場に座り込む。
苦しい…
なんで俺だけ…
もうこの人生を歩んできて、何万回も繰り返した感情に、疑問。
久しくこんな気持ちになってなかったのに…。
上を向いて、目を閉じた。
ガヤガヤと聴こえる、店から漏れる音楽、人の声や足音。
瞼を通り越して、ギラギラと輝くネオン。
ふっ。とその瞼に影が落ちる。
大「…翔くん…。」
そう遠慮がちにかけられた声。
…なんで来るかな。
手を振ったのは、次は大学で。って意味もあったんだよ。
なんだか、捕まった犯人の様に観念して瞼を開けた。
そこには、追ってきた割りに気まずそうな顔。
大「あ、えと…俺、ね。最近ね、特技を見つけて。
俺、翔くんのことなら、いつでも直ぐに見つけられるの。
すごいでしょ?」
…なんだよ急に
大「…えと……翔くん、なんだか寂し…気になって…」
そう、尻窄みにぎこちなく話す。
あーぁ…
「……俺も、智くんのことなら…直ぐに見つけられるよ。」
そう答えれば、貴方は驚いて、でもすぐ
「一緒だね。」とふにゃんと笑う。
目尻を伝う水分
…泣いちゃったじゃん。俺…
