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and you

第2章 not yet  S×O




S side



智くんのマンションのエントランスで
ニノと密着する姿を見て、帰ろうとした。


大通りに出てタクシーに乗り込んで、
もうすぐ家に着くってとき、
携帯が一通のメールを受信したことを告げる。


差出人はニノ。

『俺、本当に貰っちゃうよ?

 何回もぶつかって、それでやっと
 あの人には届くんじゃないの?』


ニノらしい言葉が並んだメール。

そこでやっと決心がついた。
例え同じメンバーのニノにだって譲れない。

あの日のことを忘れたことを謝ろう。
それから、またもう一度気持ちを伝えよう。
何回でも。何十回でも。


「すいませんっ!また同じところに
 戻ってもらってもいいですか?
 出来るだけ急ぎで。」


頭の前に心と体が動く。

うまい言葉は紡げないかもしれないけど、
でもとにかく会って顔を見て伝えたかった。



大通りでタクシーを降りて、走って
智くんのマンションにまで向かう。

インターフォンを押す右手が震えたけど、
深呼吸をして、もう一度覚悟をして
ボタンを押す。



智くんの部屋の前で、また心臓が
大きい音をたてて脈打つ。

ゆっくりと扉が開いて、出てきた智くんを
見ただけで、泣きそうになる。

あの日以来、ちゃんと見られなかった
俺の大好きな人がここにいる。


『頑張って』
と、口だけを動かして帰っていくニノ。

…ありがとう、ニノ。
あとでメール…いや、ちゃんと会って
お礼を言おう。


ニノの背中を見送って、智くんと向き合う。


「あの日のこと、全部思い出した。」


そう一言告げると、
智くんの瞳から涙が溢れてきた。

静かに泣く智くんは綺麗で儚くて、
気がつけばぎゅっと抱き締めていた。


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