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テントの中でなんとやら

第1章 濡れた記念日

 その笑いに被せるように、雨がテントを叩く。まるで、こうちゃんが答える前のドラムロールのように感じた。

「よく聞けよ。この山にな、ティンカーベルが出るんだ」

「ティンカーベル!?」














 なにそれ?

「UMAマニアならわかるだろ」

「ティンカーベルって……あ、うん……知ってる……それって……二足歩行の豚の怪物……」

 こうちゃんは、死にかけ人形のような顔付きで、私を見た。やっぱり、知ったかぶりはしちゃいけないのね。

 でも、やさしいこうちゃんは、私に教えてくれた。

「ティンカーベルは、妖精だよ」

「妖精?」

「あぁ、目撃証言によれば、大きさは鳩より一回り細く、人間の女の子に似て、黄緑の草を巻いたようなワンピースを着ていて、オオスカシバのような羽根を持つ生き物らしい。まあ、妖精かどうかはハッキリしないが、目撃した人が、ピーターパンに出てくるティンカーベルに似てたから、ティンカーベルって名付けたんだ」

「じゃ、それを見つけるために山に?」

「そうよっ! 見付けたら大発見だ。俺の名前が世に渡るぜ!」

 世に渡る前に、仕事しろよと喉から出そうになったが、1つのことに一生懸命になれるこうちゃんを見て、なんだか誇らしいとも思えた。

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