あたしの好きな人
第7章 セフレの固執
岳人に会えた。
そう思った瞬間、気が抜けたのか、目の前が真っ暗になった。
……せっかく会えたのに。
そう思ったのに、いつの間にか意識を失い、目を覚ましたら……騒がしかった。
あたしのベッドの傍で、岳人と哲が騒いでいる。
これは……何なの?
どういう状況?
ベッドから身を起こすと、視界がくらりとして、頭を抱え込んだ。
心配そうな二人から、揃って名前を呼ばれた。
「……大丈夫、咲良?……家に帰れそう?迎えに来たんだ」
哲が心配そうに言って、顔を覗き込んだ。
……家に帰る?
帰ったらまた……。
ここ最近の哲との激しい夜を思い出して、青ざめてしまう。
「……っ!」
帰りたくない。
あたしは咄嗟に、岳人の顔をすがるように見つめた。
「医者を呼んだら、お前が寝不足と過労だと診断された、点滴もして貰ったから、今日はここで、とにかく安静にしろ」
言われてみて、部屋を見渡す。
まさかと思うけど、百合スウィートルーム?
明日、新郎新婦が泊まる部屋じゃない?
素晴らしい眺めの風景を見て、くらりとしてしまう。
「ここって明日の夜には、新郎新婦が泊まる部屋じゃ……」
「みてぇだな?たまたま今日まで開いてたから、俺が泊まってたんだよ?」
さすが……神谷社長と言うべきか。
社長の権限でスウィートにさらりと泊まれる訳ね……。
「……だから何度も言うが、お前は帰れ、咲良はここで安静に過ごさせるから」
「安静に過ごすなら、家に帰るのがいいに決まってる、咲良、俺と一緒に帰ろう?」
……なるほど、こんな感じで二人で言い合いしてた訳ね。
哲には悪いけど、今は……一緒にはいたくない。
あたしは静かに口を開いた。
「……ごめんね、哲。あたし……今日はここに居させて欲しい。……体もつらいから……」
あたしの言葉に、哲の表情がすうっと変わる、瞳が陰り俯いた。
しゅんとした態度に昔から弱いけど、ここは心を鬼にして……。
そう思ったあたしの前で、岳人が容赦なく、哲のスーツの襟首を掴む。
「……つう訳だから、お前は帰ってクソして寝ろ、咲良はきっちり俺が介抱するから心配するな」
「あんただから、心配なんじゃないか!」