あたしの好きな人
第7章 セフレの固執
ベッドの上で体を起こして、ぼんやりとしていた。
ドアの方で物音がして、清涼な空気と共に、岳人のコロンの香りがして、
ほっと息をついた。
ワゴンの上に小さな鍋を乗せて、岳人が引いて来る。
暖かい安心するような、食事の香りがして、知らず知らずに笑顔が浮かぶ。
「起きてたのか?……粥、作って来たんだ、食えそうか?」
「ありがとう」
ワゴンをベッドの傍につけて、買い物袋から、お茶や飲むゼリーを何個か取り出す。
冷えぴたシートを出して、おでこにペンと、貼られて、笑いが零れた。
「なんか岳人、やけに優しくない?」
「俺は昔から優しいだろうが?」
「意地悪な事も多かったよ?」
「嘘だろ?」
「……嘘、岳人は口は悪くて上から目線だったけど、昔から優しいよ」
あたしがそう言うと、あたしを見つめる岳人の視線が、甘く優しいものに変わり、
ふっと笑って、キスを軽くされた。
「……早く食えよ」
すぐに唇が離れて、目を反らす岳人が、可愛いと思った。
ワゴンの上にある、小さな鍋の蓋を開けて、熱い湯気が立ち上る。
ご飯の香りを思い切り吸い込み、……急に吐き気が込み上げてきて、
ぐっと口元を押さえた。
「大丈夫か?咲良……っ!」
慌ててトイレへと走って、トイレの便器の中で吐いてしまう。
朝から食欲もそんなになく、胃液しか出ないのに、どうして?
確かに空腹も感じるのに?
岳人にそっと背中をさすられて、呆然としてしまう。
「……ごめん、やっぱり調子がまだ悪いみたい……悪いけど食事はもう、食べられない……」
「ダメだ。朝からろくに食事をしてないんだろ?……吐いても、栄養にはなるから食べた方がいい」
「……やっ、だってまた、吐いたら嫌だし、食べられな……」
「いつからだ?」
「……え?」
恐いくらい真剣な目をした、岳人があたしの肩を掴んで、そっと聞いた。
「いつからこんな調子なんだ?」
「……やっ、本当にここ最近、ちょっと食欲ないくらいで、吐いたりとかはあんまり……」
「……お前、自分で本当に分かってないのか、可能性も考えなかったのかっ?」
「……可能性って、なんの……っ?」
「ばか咲良……っ」
何も言わずにぎゅっと、抱きしめられてしまう。
ここは、いくらスウィートルームっていって、最高級のトイレでも。