あたしの好きな人
第7章 セフレの固執
トイレの床の上で、抱きしめられてしまう。
この状況っておかしいのに、ひょっとしてという思いが、
過っては消える。
ピルを飲めば妊娠しないなんて、100パーセントとはいえない。
哲とセフレという関係を続け、あんなにほぼ毎日エッチすれば、
子供が出来てもおかしくはないのに。
それなのに狡い考えが、浮かんでは消える。
……岳人の子供ならいいのに。
じゃあ、哲の子供ならば?
……おろすとでも?
そんな理由で軽々しく、あたしに命をどうこうすることは出来ない。
自分だって、一歩間違ってたら、この世に生を受けてなかったかも知れないのに……。
「……咲良、明日俺と一緒に病院に行こう、お前は何も考えなくていいから、頼むから……一緒に病院に行こう」
ぎゅっと抱きしめられ、顔を上げた岳人の目は、やけに真っ直ぐで真摯で、
その目を見ていると、安心出来て、素直に頷いてしまう。
「ありがとう、咲良」
また、優しく抱きしめられた。
結局その後は、岳人に言われて、お粥を少しだけ食べた。
後で聞いた話によると、洋子が妊娠初期につわりがひどく、
しょっちゅう吐いていたらしく、吐くのがつらいから食べないようになり、
それが悪循環になって、点滴を受けることがあったようだ。
医者からは吐いても食べるようにと、指示されたらしい。
巽が食べれるようなメニューを、試行錯誤して考えてたようだ。
お粥を食べ終えて、シャワーを浴びて、岳人があたしの替えの下着まで用意してくれて、
豪華なベッドに眠りにつく。
隣には同じようにベッドで眠る岳人がいて、あたしは昼間に寝てたせいか、
なかなか寝付けなかった。
岳人は忙しそうに、会社の人らしき人とケータイで会話していたし、
あたしは色々と考え過ぎて、眠れなかった。
後は部屋が広過ぎて、眠れない……。
……あの夢は、ただの夢、体調が悪い時は、おかしい夢を見るモノだから。
お母さんが岳人のお父さんに、会いたがってて、子供はあたしのことで、会わせれないとか、
そんなこと、おかしいよ。
そもそも岳人とあたしは、同級生なのに。