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あたしの好きな人

第9章 恋しない女




「いらない情報、そういうのいいから」

「お気に召さなかった?じゃあ、こういうのは?」

カウンターの隣同士に座り、距離が近いと思ってたけど、

あたしの顔の前で綺麗な顔が斜めに傾き、唇が重なった。



「……なっ!」

ガタッ!

慌てて後退りしようとして、イスが揺れてしまった。

「少しはドキドキした?」

ペロリと舌を出して、唇を舐める仕草がやらしい。

……この人っ!

カァっと頭に血が登り、席を立った。

マスターは奥で作業していて、他のお客さんはカウンターにはいない。

あたし達の背中側に、テーブル席のお客さんはいるけど、

誰も気付いた様子はない。

そのまま、会計を済ませて、店を出ることにした。


このまま歩いて帰るか、タクシーに乗って帰るか、悩みながら歩いて、

公園を出た場所にあるタクシーに向かう。

外は涼しくなっていた。

気持ちいい風が吹いて、あたしの髪を揺らす。

さっき芋焼酎を一気に飲んだから、足元が不安定になっている。

まずい、これは酔っている。

お酒に酔うとろくなことにならない。

今までの数々の醜態を思い出し、逃げて来て正解だと安堵したのに。

グイッ

腕を引っ張られた。



「あれだけじゃ足りない」

振り返れば、皓さんが、月の光を浴びて、妖艶に微笑んでいた。

「……しつこい」

腕を引っ張られ、引き寄せられて、抱きしめられてしまう。

いかにもモテそうなタイプの遊び人。

こうやって声を掛けても、断られたこともないんだろう。

それが勘に障る。

「あたしにこんなことしても、無駄だからね」

「……どうして?」

「恋愛とかもう、したくないし、そういうの面倒だから」

「……俺もそう、恋愛しようとは思わない」

「じゃあ、帰りましょう」

「それじゃあ俺と、ゲームをしよう、好きになってはいけない遊び」

「……馬鹿にしてるの?」

「俺は女を好きになれない、君は恋愛をしたくない、だけどセックスはしたい、だったらいいだろう?」

「……良くない、セックスなんかしたくないから」

要はセフレってこと?

また、そんなこと……。

そう思って、呆れてため息をついた。

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